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月探査NEWS

2025.12.21

 

(1)米国大統領令「Ensuring American Space Superiority」の発布と、(2)中国 Distant_Retrograde_Orbit (DRO) での衛星群ミッション成功について

(1)
先日12月18日、米国大統領令「Ensuring American Space Superiority」が発布されました。
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/12/ensuring-american-space-superiority/

この中で、あらためて、
・「2028年までにアメリカ人を再び月に送り込む」
・「2030年までに恒久的な月面基地の初期要素を確立する」
・「2030年までに打ち上げ可能な月面用原子炉の準備をする」
といったことが記載されています。
 月面用原子炉(まずは安全が確実な小型のものでしょう)を配備することで、月面でのエネルギー問題を解決していこうとする姿勢は、注目に値します。小型原子炉の活用で、月面の夜間での活動や、地下空洞での拠点建設に伴うエネルギー問題は、大幅に減じることになります。
 今後、中国に続き、米国でも、理学探査を含む月地下空洞探査、科学の貢献が期待される地下空洞での拠点構築構想が本格化する可能性が急速に高まるのではないかと思われます。

(2)
 今年のハイライト記事の一つとして、中国によるDistant Retrograde Orbit (DRO)
での衛星群ミッション成功についてを、あらためて述べておきたいと思います。

 今年2025年4月、中国は月–地球間の**遠距離逆行軌道(Distant Retrograde Orbit:
DRO)**において相互リンクミッションを成功させ、
https://www.china-in-space.com/p/china-begins-operating-first-distant
中国の宇宙開発動向に敏感な関係者に強い印象を与えました。

 本ミッションは、中国が推進する International Lunar Research Station(ILRS)構想
https://www.cnsa.gov.cn/english/n6465652/n6465653/c6812150/content.html
の第一段階を構成する重要な要素の一つの達成とも位置づけることができるでしょう。

 本ミッションの意義は、月–地球(cis-lunar)空間を結ぶ通信ネットワーク、すなわち強固な電磁波リンク体制の構築を実証した点にあります。こうした衛星群は、時として軌道を変え移動し、さまざまな用途に使われる可能性もあるでしょう。今後、中国に加え、他国においても、DRO軌道における衛星群、そしてそれらと相補的に運用される本格的な月面拠点の建設が進められ、将来的には地球周回衛星群を含む広域な宇宙インフラの安定的な管理・運用を視野に入れたミッションが加速していくものと考えられます。

 そのような流れの中で、月(さらには火星)の地下空洞内に設置される基地は、外部からの電磁波リンクが困難である一方、放射線や微小隕石、衝突に伴う飛散物から防護され、さらに安定した温度環境での運用が可能になるという利点を備えています。しかし月火星の地下空洞へと通じる縦孔の発見からすでに16年以上が経過していますが、月火星の地下空洞の重要性はおろか、その存在自体も依然として十分には認知されているとはいえません。先に発布された「日本の国際宇宙探査シナリオ案2025」では、2021年版には記載されていた火星の縦孔・溶岩チューブ探査とその意義については削除されています。しかし今後、月面さらには火星表面の地下空洞は、科学、人類活動拠点構築の両面いずれにおいても重要であるとの認識は、国際的に広がっていくものと考えられます。

 仮に今回のDRO衛星群ミッションの成功を、中国のILRS構想における第一段階の達成と捉えるならば、次の段階として、予定どおり中国が月の溶岩チューブ探査に本格的に取り組む可能性は十分に考えられます。我が国においても、溶岩チューブ探査に向けた準備を着実に進めていく必要があり、月火星探査に関わる理工学者、特にUZUME-WGにはその一端を担うことが期待されます。

(文責 春山純一)

2025.09.17

 

嫦娥6号サンプルから、後期隕石重爆撃に関する重要な知見が得られる

 最近、嫦娥6号のサンプル解析結果に関して、興味深い論文が発表されました。
以下、簡単に、紹介いたします:

J. Chen et al., Nature Astronomy, 20 August 2025
KREEP-like lithologies in the South Pole–Aitken basin reworked by the Apollo basin impact at 4.16 Ga

https://www.nature.com/articles/s41550-025-02640-5

 この論文では、嫦娥6号が持ち帰った月サンプルの分析により、アポロ盆地の形成時期が41.6億年前であることが報告されています。これは、従来唱えられてきた「38〜39億年前に後期重爆撃(Late Heavy Bombardment: LHB)が集中した」という説を覆し、LHBはそれ以前から始まっていた可能性を示す重要な成果です。

 「月(そして地球)は形成(約45億年前)後、一度隕石衝突が減少したのち、再び急激に衝突が増加したのではないか」という仮説が「後期重爆撃(LHB)」です。このLHBによって、地球に水やアミノ酸、エネルギーが供給され、生命誕生に関与したのではないか、という説も提案されています。さらに、木星など巨大惑星が形成後に軌道を移動し、その結果、大量の小惑星を地球に降らせたのではないか、という力学モデルとも関連し、月惑星科学者の強い関心を集めてきました。
 地球の地史学的情報からは、LHBは38〜39億年前の短期間にLHBが集中して起きたのではないかと考えられてきました。しかし、その正確な時期や規模はいまだ不明であり、この問題の鍵はネクタリス盆地の形成年代にあるとされてきました。

 月には、代表的な大規模衝突盆地として、南極–エイトケン盆地、ネクタリス盆地、雨の海盆地があります。これまでの推定では、南極–エイトケン盆地は約43億年前、雨の海盆地は約38億年前に形成されたとされています。ネクタリス盆地は形成時の噴出物の重なりや上に載るクレーターの数から、その間に位置していることが分かっています。また、ネクタリス盆地形成から雨の海盆地形成までの間には、多数の盆地が形成されています。したがって、もし両者の形成間隔が短ければ、LHBは極めて短期間に集中して起こったことになります。例えば、ネクタリス盆地が39億年前に形成されたとなれば、その後1億年の間に多数の盆地を形成したLHBが生じていたことになり、そのことは、地球上ではこの1億年の間にLHBにより劇的な環境変化が生じた可能性へとつながることになります。一方で、ネクタリス盆地の形成が41億年前であれば、LHBは41〜38億年前にかけて、より緩やかに進行した、あるいは従来考えられたような「集中したイベント」ではなかった可能性も出てきます。

 今回の嫦娥6号の成果は、ネクタリス盆地そのものの年代決定ではありませんが、ネクタリス盆地形成の年代に近い(若干新しい)とされるアポロ盆地の年代が41.6億年前であることを示しました。この結果により、従来の「LHBは39〜38億年前の短期間に集中した」という説は大きく後退したことになります。
 ただし、「LHBがアポロ盆地形成(41.6億年前)以後、39〜38億年前の短期間に生じた」という可能性は残されています。この点を明らかにするには、同時期に形成された他の盆地を広く調査する必要があります。
さらに、南極–エイトケン盆地の正確な年代決定も重要です。それは「LHBの集中の有無」の解明というより、月形成直後の巨大衝突が月内部構造の進化に与えた影響を明らかにする上で、極めて重要な課題の解明につながるものといえます。

(春山純一)

2026.1.13

 

火星カルスト地形に形成された孔が発見されたとの報告

​​

 2025年11月、火星に存在するカルスト地形に形成された孔が発見されたとの報告が、深圳大学の Ravi Sharma らによって発表されました。 この成果は The Astrophysical Journal Letters, 993:L36(13pp),

DOI 10.3847/2041-8213/ae0f1c

に掲載されています。

 これまでにも、月だけでなく、火星にも溶岩チューブに開口したと考えられる縦孔が複数報告されてきました。2007年にタルシス三山地域で7つの孔が発見されたのを皮切りに、地下空洞へと通じている可能性のある縦孔の報告が数多くなされています。

 UZUMEーWG でも、こうした火星の縦孔探査を重要な視野に入れてきています:2016年に、現在のWGの前身である「月・火星の地下空洞直接探査(Unprecedented Zipangu Underworld of the Moon/Mars Exploration:UZUME)」リサーチグループ(RG:ワーキンググループの前段階)が立ち上がりました。2020年以降は、公募型小型探査に関する ワーキング(WG) 活動として、UZUMEーWGは月の縦孔探査に対する比重を重くしての活動となっていますが、火星の縦孔探査も常に重要な対象として位置づけています。特に、エリシウム山麓に存在する縦孔・溶岩チューブが注目されます。火星エリシウム山麓における縦孔陥没地形については、後藤らが作ったリストを参照下さい(JAXA-RM-16-008、p.1-19)。

 エリシウム山は、約30億年前前後、すなわち Hesperian から Amazonian への移行期に形成されたと考えられています。この時期は、大規模な水の噴出や谷地形の形成が進んだ時代でもあります。そのような環境下で、エリシウム山は海洋に囲まれており、エリシウム山の形成とともに生じた溶岩チューブの一部は、形成当初、海岸線へと連続していた可能性があり、そこは、形成後に水の満ち引きを受ける環境、すなわち乾燥状態と湿潤状態が繰り返される場であったと考えられます。乾湿が反復する環境では、生命が誕生・維持される可能性が高いとされます。その後、火星は磁場を失い、大気を失い、強い放射線が降り注ぐ環境へと変化しました。もし約30億年前前後に火星で生命が発生し、その後の厳しい環境において生き延びることができたとしたら、その場所としては、やはり溶岩チューブのような地下空間ではなかったかと想像されます。生命が化石となってみつかる、あるいはもしかすると現在に至るまで、存続しているのがみつかる、そういった可能性も否定できません。

 今回 Sharma らによって報告されたカルスト洞窟地形は、溶岩チューブ以上に水の関与が大きい洞窟であり、生命が過去に存在していた、さらには現在も存在している可能性をより強く示唆するものといえるでしょう。

 まずは、月の縦孔・地下空洞探査を早期に実現させ、探査実証成果を着実に積み上げいくことが重要ですが、平行して、火星の縦孔・地下世界探査もまた目指し、宇宙生命科学分野、その他様々な科学分野についての研究や、火星地下空洞探査技術の研究を、進めていくこと

も期待されます。

(文責 春山純一)

2025.08.19

 

「惑星の天窓表面と溶岩洞窟のロボット協調探査」論文

Science誌 の姉妹誌 Science Robotics にて、
“Cooperative robotic exploration of a planetary skylight surface and lava cave”
(「惑星の天窓表面と溶岩洞窟の協調ロボット探査」)と題する論文が、8月13日付で発表されました。

https://www.science.org/doi/10.1126/scirobotics.adj9699

この研究では、3台のローバーが協調して溶岩洞窟の外部および内部を探査する地上実験結果が紹介されています。主な著者はヨーロッパの情報科学系研究者のようです。中国と同様、ヨーロッパでも、ロボット科学者達は、ロボットによる月地下空洞探査に向けた地上実証を積極的に進めていることが分かります。

最近は月の溶岩チューブに関する動画も多数公開され始めたように思われます。
例えば8月12日付で公開された動画

https://www.youtube.com/watch?v=q2tHqbDhvUo
では、1:55付近に「かぐや」が溶岩チューブ上部の崩落孔(天窓)を発見したというナレーションが挿入されています。また、その後の解説では、NASAやESAがそうしたロボット探査を考えている旨、述べられています。もちろん、日本でもUZUME-WGではロボットによる月の地下空洞探査を検討し、また地上実験も行っています。

(春山純一)

2025.06.30

 

中国の「模擬月地下空間」計画

https://www.friendsofnasa.org/2025/06/china-prepares-for-robotic-moon-mars.html
に以下のような記事が載っています:


-China has officially completed its first teaching and practice base for the "simulated Moon underground space" program by the Jingbo Lake in Mudanjiang City of northeast China's Heilongjiang Province on Wednesday, June 25, 2025.

(訳:中国は2025年6月25日水曜日、中国北東部黒竜江省牡丹江市の金波湖畔に「模擬月地下空間」計画のための初の教育実習基地を正式に完成させた。)

中国は、国際月探査ステーション(ILRS:International Lunar Research Station)構想(2021年)の中で、月の地下空洞への探査を早期に実施する方針を明確に示しています。
月の地下空洞は、科学的な観点からも、利用の観点からも非常に重要な対象です。
中国の無人および有人探査の研究者たちは、この分野で着実に研究を進めており、探査や利用に向けた取り組みが確実に進行していることが、さまざまな情報からうかがえます。

(春山純一)

2025.07.17

 

月面の「非」極域探査

全米アカデミーズ(NASEM)による、「有人探査機による10年レベルの科学目標達成に向けた、月面の主要な非極地目的地」の意見募集が出されました。
https://app.smartsheet.com/b/form/acfe66700d9642c4aefa907bcddacf1c
〆切りは8/7 です。

溶岩チューブ探査に興味を持っている研究者はアメリカには相当いますので、かなり多くの意見が出される可能性があります。

ちなみに、ESAも5月に同様に「Finding Regions of Scientific and Operational Interest for a European Lunar Exploration Infrastructure」と題して、意見聴取をしています。

https://ideas.esa.int/servlet/hype/IMTdocumentTableId=45087220320492822&userAction=Browse&templateName=&documentId=afe430c165f6ad565be81af80b177525
これらの〆切りは8/1〆 です。

NASA、ESAは(あるいはアメリカ政府、EU政府は?)、今後のArtemis計画において極域以外の候補地点も視野に入れるべく、科学的・技術的観点から、さらには利用の観点からの情報を広く募り、極域探査を基軸とする現行の月有人探査方針を補完し、よりバランスの取れた長期的探査戦略の検討を進めようとしていることが背景にあると考えられます。

非極域には、火山地形(溶岩チューブや、ドーム地形など)、マントル物質の露出地域、中低緯度の水氷存在地域など、科学的にも技術的にも魅力的な候補地が多く、国際的な議論の広がりに伴い、今後の協力戦略や技術実証の選択肢としても注目していく必要があります。

月面における着陸点を広く見渡すことで、科学的・工学的可能性を再評価し、国際パートナーシップの中で創造的な視点での検討を行っていくことは、トップレベルのサイエンス成果を得ることの他、将来的な月における拠点建設でのプレゼンスの獲得・維持、デュアルユースとなる技術実証による国内産業力強化へのフィードバック、探査マネジメント力向上による宇宙活動機会の確保にもつながると考えられます。

(春山純一)


2025.06.30

 

H2A- 50号機の打上げ成功

6月29日未明、H2Aロケット50号機が打上げに成功し、有終の美を飾りました。関係者の皆さま、そしてロケット自身、本当にお疲れさまでした。


H2Aによる打上げといえば、2007年の日本の月探査機のSELENE(愛称「かぐや」)が思い出されます。もう20年近くも前のことになります。
当時、私も種子島宇宙センターで担当観測機器の取り付けや最終確認作業を行いましたが、ロケット担当の三菱重工の皆さんの気迫には、ただならぬものを感じました。もちろん、常に全力を尽くされているのでしょうが、このときは特に、重工として初の「完全請負」での打上げということもあり、並々ならぬ緊張感、気合いの入りがあったのだと思います。
とはいえ、当時、私をはじめ、少なからぬ関係者が一抹の不安を抱いていたのも事実です。というのも、かぐやを搭載したH2Aは、初号機から数えて「13号機」。なぜまた、よりによって月探査機に「13号機」を割り当てる? しかも当初の打上げ予定日は、9月「13日」でした。ダブル・サーティーン……。
結局、13日は天候不良で延期となり、ひとつの「13」は回避されました。そして翌14日、H2A-13号機は、SELENEを乗せて力強く飛び立ちました。それは、完璧な打上げでした。
SELENEはその後も順調に飛行を続け、月面の縦孔の発見をはじめ、数々の成果を挙げました。


本当に、H2Aは素晴らしいロケットでした。
そして今、新たな時代が始まります。H3ロケットの活躍に大いに期待しています。そしてぜひ、私たちの月探査ミッション「UZUME」を、月へと運んでもらいましょう。

 

(春山純一)

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